遺産分割協議をやり直す場合の注意点

今回は、遺産分割協議をやり直す場合の注意点について、解説します。
以下の事例で検討しましょう。

【事例】父が亡くなり、相続人は母、長男、私、三男の4人です。長男は母と同居しており、長男が母の世話をするという条件で、父の遺産を長男が多めに相続するという合意をし、遺産分割協議書を交わしました。ところが、その後長男が大病を患い、母の世話をすることができなくなってしまいました。そのため、改めて話し合いをして、遺産分割協議をやり直したいと思いますが、可能でしょうか。

債務不履行による遺産分割協議の解除は不可

 遺産分割協議をするに当たり、本事例のように、法定相続分より多くの遺産を相続する代わりに、一定の負担を課したり債務を負ったりするケースがあります。これらの負担を負ったにもかかわらず、後日その相続人がそれを履行しなかった場合、遺産分割協議の解除はできるか、という問題があります。

 判例は、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は遺産分割協議において債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけであり、このように考えないと遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されるとして、債務不履行による解除はできないとしています(最判平元・2・9民集43・2-1、判時1308・118)。したがって、本事例においても、遺産分割協議を債務不履行解除することにより、遺産分割をやり直すことはできません。

相続人全員の合意による遺産分割協議の解除は可能

 上記の通り、遺産分割協議の債務不履行解除は不可ですが、すでに成立した遺産分割協議について、その全部又は一部を相続人全員の合意により解除したうえで、改めて再協議し遺産分割協議を成立させることができます(最判平2・9・27民集44・6・995、判時1380・89)。

 ただし、最も注意しなくてはいけない問題点があります。税金です。遺産分割の再協議によって従前の分割協議より多くの遺産を相続した場合、その時点で新たな財産の移動がなされたことになり贈与税が課税されるリスクが生じます。東京高裁平成12年1月26日決定(税資246・205)も、再協議によって従前の遺産分割の状態から新たに移転され取得した財産は、遺産分割によって取得したものではなく贈与によって取得したものと判断しています。また、相続税法基本通達19の2-8但書は、「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」とされています。

 弊所へご相談されるお客様で、税務負担が原因で遺産分割協議のやり直しを断念された方は多くいらっしゃいます。再協議をする必要性が生じないよう、慎重に遺産分割協議を行うことが肝要です。

 

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