成年後見
当事務所では、成年後見・保佐・補助の申立てサポートや老後に備えた任意後見契約の締結、また実際に成年後見人に就任して財産管理業務を行うなどの成年後見・任意後見全般の手続きを取り扱っております。
成年後見制度とは
認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力(※)が不十分な方は、自分で預貯金や不動産などの財産を管理したり、介護サービスを受けるための契約や施設への入所に関する契約などの手続きを行うことが困難な場合があります。このような方のために財産管理や身上監護を行う者を選任し、本人を保護・支援する制度が「成年後見制度」です。
成年後見制度は、(1)自己決定権の尊重、(2)現有能力の活用、(3)ノーマライゼーション(障害のある方も他の人と等しく普通の生活ができる社会が正常であるという考え方)という理念に基づいています。
※判断能力:売買や贈与等の法律行為をする際に、その内容をよく理解し、その行為が自分に有利なのか不利なのか等を考え、適切な意思決定をするのに必要な精神能力のことをいいます。
成年後見制度は大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類に分かれます。「法定後見」は既に判断能力が衰えた方のための制度であるのに対し、「任意後見」は将来判断能力が衰えたときのためにどうしてもらいたいのかをあらかじめ契約で決めておく制度です。
以下で更に詳しくご説明します。
法定後見
法定後見制度とは
「法定後見制度」とは、すでに本人の判断能力が喪失または不十分となっている場合に利用する制度で、家庭裁判所に申立てをして、本人を支援・保護する人を選任します。法定後見は、本人の状況に応じて「後見」、「保佐」、「補助」の3つの類型に分かれており、本人を支援する人をそれぞれ「成年後見人」、「保佐人」、「補助人」(以下、「成年後見人等」といいます)と呼びます。これら成年後見人等が本人を代理して契約などの法律行為をしたり,本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
対象となる方 | 判断能力が欠けている方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
申立人 | 本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市区町村長等 | ||
成年後見人等の同意が必要な行為 | 同意権なし | 民法13条1項で定める行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」、民法13条1項所定の行為の一部 |
取消しが可能な行為 | 日常生活に関する行為以外の行為 | 民法13条1項で定める行為(日常生活に関する行為は除く) | |
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」 |
※民法13条1項では、「元本を領収すること」、「借金・保証をすること」、「不動産等の契約」、「訴訟行為」、「相続の承認・放棄」、「建物の新築・増築」などの行為が定めてあります。
※保佐人の同意権、取消権は、家庭裁判所の審判により民法13条1項所定の行為以外についても範囲を広げることができます。
※本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要となります。補助開始の審判、補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
本人の状態が「後見」、「保佐」、「補助」のうち、どれに該当するのかについては、申立てを行う親族などが決定するのではなく、原則として、医師の診断書に記載される「判断能力判定についての意見」を基準に選択します。診断書は家庭裁判所への申立て時に必要な書類となり、必ずしも精神科などの専門医に書いてもらう必要はなく、本人の状況を把握しているかかりつけの医者などがいる場合にはその先生に書いてもらう形でも問題ありません。
成年後見人等は、本人の意見、心身の状態、財産の状況、本人との利害関係の有無などの一切の事情を考慮して、家庭裁判所が適任と考える者を選任します。本人の親族が選ばれるケースもありますが、本人の事情に応じて司法書士等の職業後見人が選任されることもあります。
また、成年後見人等の報酬は、家庭裁判所が、本人の資力その他の事情を考慮して、本人の財産の中から支払われます。
ここからは、成年後見人、保佐人、補助人のうち、成年後見人について詳しくご説明します。
後見人の日常の職務
成年後見人の業務は大きく分けて、次の3つに分かれます。
1.財産管理
文字通り本人の財産を管理します。具体的には、預貯金や保険、有価証券などの管理や不動産などの重要な財産の管理や処分(売買や賃貸借)、相続手続き(遺産分割協議への参加等)などを行います。
2.身上監護
本人の意思を尊重するとともに、心身の状態や生活の状況にも配慮しながら、本人の生活や健康に関する支援をします。具体的には、本人の住居の確保、生活環境の整備、介護契約、施設の入退所契約、病院での治療や入院手続きなどの支援です。実際の介護や看護、身の回りのお世話などは、一般に成年後見人の職務ではありません。ただし、そのような支援が必要であれば、後見人は本人がそれらのサービスを受けられるような契約を締結する義務があります。
3.定期報告
成年後見人は、家庭裁判所の求めに応じて、家庭裁判所に対し、後見事務に関する報告書を提出しなければなりません。
※平成28年10月13日施行の改正法により、成年後見人は家庭裁判所の審判を得れば本人宛郵送物の転送を受けることができるようになるとともに、これを開いて見ることができるようになりました(民法第860条の2、860条の3)。また、本人が死亡し、必要がある場合で本人の相続人の意思に反しないなどの一定の要件を満たせば、相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為や弁済期が到来している債務の弁済、遺体の火葬又は埋葬に関する契約の締結等ができる旨が規定されました(民法第873条の2)。
法定後見申立ての流れ
1.司法書士との面談
どのような理由で成年後見の申立を希望されるのか、ご本人様の状況、成年後見人候補者はいるかなど詳しくお話をお伺いします。
2.家庭裁判所へ申立て
必要な書類を整え、本人の住所地(実際に本人が住んでいる場所を指し、住民票登録をしている場所とは必ずしも一致しません。)を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
3.家庭裁判所の調査・審問・鑑定
家庭裁判所の職員が、申立人、後見人候補者、本人から事情を聞いたり、本人の親族に候補者についての意見を照会することもあります。
また、必要に応じて、本人の判断能力について鑑定を行うことがあります(鑑定費用については、5万円~10万円程度)。
4.後見開始の審判
家庭裁判所は、調査等の内容を検討したうえで、成年後見人を選任します。後見人の選任は、様々な事情を踏まえて総合的に判断されるため、必ずしも申立て時の候補者が選ばれるとは限りません。本人の財産が高額であったり、親族間でトラブルが発生していたりする場合には、司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人に選ばれることがあります。
5.審判書の発送
後見開始の審判がなされると、申立てをした家庭裁判所から本人、申立人、後見人に選任される方などに対して審判書が発送されます。後見人に選任される方がこの審判書を受け取ったときから2週間経過すると審判が確定し、正式に後見人となります。
6.登記
後見人が審判書を受け取った日から2週間が経過して審判が確定すると、家庭裁判所の嘱託により、東京法務局に登記がされます。
成年後見申立ての注意点
成年後見を申し立てる理由は様々ですが、その中でもよくあるのが、本人名義の居住用不動産の売却や、本人が相続人となる遺産分割協議を目的とするケースです。
「成年後見人を選んでもらえさえすれば、すぐに思い通りに手続きができる」という誤解がよくありますが、必ずしもそうではありません。
成年後見は、あくまでも本人の権利保護のための制度です。成年後見人が本人に代わって居住用不動産の売却をする場合には、家庭裁判所の許可を得なければならず、仮に許可なく売却をしてもその処分は無効となります。
また、本人と成年後見人がいずれも相続人である場合は家庭裁判所で特別代理人を選任してもらい、特別代理人が本人に代わって遺産分割協議に参加する必要があります(後述の後見監督人が選任されている場合は、それらの人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。)また、基本的に本人の法定相続分を割り込まないよう遺産分割協議をしなければならないとされているため、本人の相続分が全くないような遺産分割協議は原則できません。
それから、一度成年後見人に選ばれると、原則、途中で辞めることができません。「不動産の売却が無事に終わったので、成年後見人を辞めます。」というようなことは認められないのです。
したがって、基本的に本人が亡くなるまで財産管理や身上監護の業務を行っていくことになります。
当事務所では、このような点もお客様がご理解できるよう十分ご説明させていただき、お客様に成年後見制度に関する正しい認識を持っていただいたうえで、申立書類の作成や、後見人への就任、親族で後見人になられる方への助言や支援等をさせていただきます。
後見監督人
「後見監督人」とは、後見人の職務を監督する人のことをいいます。家庭裁判所が必要があると認めた場合には、本人(被後見人)やその親族、後見人の請求により、または職権で、後見監督人を選任することができるとされています。
基本的に後見人が業務を行うことに変わりはありませんが、本人の重要な財産を処分するときなど、業務内容によっては後見監督人の同意が必要になります。また、後見人が財産の調査や財産目録の作成等をするときには、後見監督人の立ち会いが必要です。さらに、後見監督人は、本人と後見人の利害が対立した場合には本人の代理人となったり、後見人の解任請求をする権限もあります。
後見監督人が選任されやすいケース
- 資産の額や種類が多い場合
- 親族間で意見の対立がある場合
- 本人と後見人の間でお金の貸し借りや立替金などがあり、その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合。
- 申立ての動機が重大な法律行為をするためのものである場合(不動産の売却など)
- 本人と後見人が双方とも相続人である場合の遺産分割協議をするために後見開始の申立てをする場合
- 本人の財産状況が不明確であり、専門家による調査が必要な場合
- 本人について訴訟や債務整理など、法的手続きを控えている場合
- 本人と後見人との関係がもともと疎遠であった場合
なお、「保佐」や「補助」の場合にも、「保佐監督人」や「補助監督人」と呼ばれる人が選任されることがあります。
任意後見
任意後見制度とは
「任意後見制度」とは、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活・療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公正証書で結んでおくという制度です。本人の判断能力が衰えたら、本人の同意を得て任意後見人になることを引き受けた人(受任者)や親族等が任意後見人が家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立てを行い、任意後見監督人が選任されたときから、その契約の効力が生じます。
しかし、この任意後見契約のみを締結するだけでは、本人の判断能力が低下した場合にその発見が遅れてしまう可能性があります。また、身体が不自由になってしまった場合には、それは判断能力の低下ではないため、任意後見では対応できません。
そこで、任意後見制度を補填する役割を持つ契約や遺言などを適切に組み合わせることにより、安心して老後を迎えられるようになります。
見守り契約
任意後見契約を締結してから、実際に判断能力が低下して任意後見人が選任されるようになるまでには時間があることが通常です。そのため、本人(委任者)がひとり暮らしなどの場合、本人の判断能力が低下したことに気付くのが遅れ、適切な時期に任意後見を開始できない場合が想定できます。このような事態に備え、本人の心身の状態や生活状況を定期的に受任者に確認してもらうという内容の契約を「見守り契約」といいます。確認の方法は自由に定めることができますので、電話確認や直接訪問などをうまく組み合わせるなども可能です。
任意代理契約(財産管理等委任契約)
判断能力はあるものの、寝たきりや入院などで身体が不自由になってしまった場合、金融機関との取引など、財産管理に関する特定の法律行為を受任者に委任する契約を「任意代理(財産管理等委任契約)」といいます。これは任意後見制度に基づく契約ではなく、通常の委任契約であり、任意後見契約の効力が生じない間の自己の財産管理について不安を感じている方にとっては、非常に有効な契約です。ただし、受任者による権利濫用などの恐れもあるため、その利用や委任契約の内容については慎重な検討が求められますので、任意後見契約とあわせて公正証書で作成するのが望ましいでしょう。
死後事務委任契約
任意後見契約は本人の死亡により終了しますが、本人の死後の事務(葬儀、納骨、埋葬など)については任意後見人には委託できず、原則として、本人の死後事務は行うことができません。そこで、任意後見契約とセットで「死後事務委任契約」というものを締結することで、本人の死後事務についても委任することができるようになります。こちらも公正証書で作成をしておくべきです。
任意後見制度の種類
任意後見制度は、各種契約の組み合わせにより「将来型」「移行型」「即効型」の3種類に分かれています。
※個々の事情に応じて、死後事務委任契約や遺言など、様々な契約を組み合わせることもできます。
※(1)の即効型は、判断能力の程度によっては、任意後見を利用できないので、この場合は、法定後見制度を利用します。
後見制度支援信託
後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち、日常必要とする範囲の金銭だけを親族後見人に管理させ、残りの金銭を信託銀行等に信託するという仕組みです。親族後見人選任の必要性や、親族後見人による財産管理の適正化を実現するための手段の一つとして考案されたのがこの制度です。この制度を利用できるのは成年後見・未成年後見のみで、保佐や補助、任意後見は利用できません。
家庭裁判所が後見制度支援信託の利用を適切だと判断した場合、司法書士などの専門職後見人が選任されます(このとき親族後見人も選任され、それぞれの役割を分担する場合もあります)。
専門職後見人が信託利用を適切だと判断した場合、まず、被後見人の生活・財産状況を踏まえ、日常生活で必要なお金や信託する財産の額などを設定して家庭裁判所に対して報告します。
次に、家庭裁判所は、専門職後見人の報告をもとに、信託契約締結のための指示書を発行します。
そして、専門職後見人は、この指示書に従って、信託銀行と信託契約を締結します。締結後に、専門職後見人は、後見人を辞任し、後見事務を親族後見人に引き継ぎます(当初専門職後見人のみしか選任されていなかった場合には、このタイミングで親族後見人を選任します)。
また、被後見人に多額の支出が必要になって,後見人が手元で管理している金銭だけでは足りなくなってしまった場合には、家庭裁判所へ文書を提出し、家庭裁判所が発行した指示書を使用して、信託銀行等から払い戻しを受けることになります。